時計の修理の話。

時計が壊れた。ただ壊れたと言っても、それはメカニック的な問題ではなくて、皮のベルトの部分が裂けてしまったのだ。これは衝撃的な力が瞬間的に働いたわけではなくて、長年の疲労によって避けてしまったものなのだ。なので、時計が壊れたら時計屋さんへ、という万人受けする発想で「新宿 時計 修理」でググって出てきたとある時計修理工房に出かけた。

新宿の某時計屋に着くと、僕はまず店内を一般客を装い、って僕は時計の修理をオーダーするというれっきとした一般客なのだがまるで時計を買いに来て物色中がごとく店内をぐるりとまわりながら、時計の革ベルトが一覧できる場所で立ち止まった。店員さんは3人。みんなレジを打ったり、なんなりと仕事をしているので、なんとなく声をかけづらい。僕はとりえあえず、革ベルト一覧を見て値段の相場が3000円~8000円くらいであることを確認して、もう一度店員に視線を合わせると、メガネのボウズの店員さんがお手すきになっている。

「すいません」
「はい」
「時計のベルトの修理をこちらでお願いできると聞いたのですが」

本当は誰かに聞いたのではなくネットで調べたのだが、そういう詳細はこの際問題ではない。

「あぁ、できますよ」

よかった。

「それで、この時計なんですけれども」

僕は安心してカバンの奥の方から時計を取り出して見せる。

「あ・・・これはちょっと」

店員の表情が曇る。ちょっと口ごもりながらも続けるのを僕は黙って聞いていたが、要するに僕の時計は手作りの時計なので、修理できないとのこと。ちょっと待って、手作りなのは認めるけど、手作りったって僕が作ったわけじゃなく、ちゃんと時計職人さんが作ったのだよ。それなのに、何故!!時計が時計であるための時計の時計たる部分、時計のアイデンティティの時刻を表示する部分が手作りなのであって、皮のベルトを交換するくらいはできるんじゃないの。僕はもう少し問い詰めると、皮のベルトの部分が独特のつけ方で、一般的な時計はこうは付けないと言うのであった。

「ん。え、そうなんですか・・・」

僕はもう一度革ベルト一覧にあるベルト群を見てみる。そして僕の時計のベルト部分を見てみる。そして比べてみる。たしかにここにある全てのベルトは僕の時計には全く合いそうにない。というかよく考えてみると、僕の時計の皮のベルトみたいなベルト部分を持つ腕時計は見たことない。
時計の文字盤部分はよく目にしてたけど、ベルトの部分ってそんなに注目してなかった。ただの革ベルトだと思ってた。

「じゃあ、これはここではもう修理できないんですよね」
「すいません」
「時計修理工房、なのに、できないんですよね」
「すいません」
「じゃあこういうのを修理をお願いできるところって無いですか。どこの時計屋さん言ってもだめですかね」
「そうですね、職人さんに直接お願いするとか…」

出た。職人に直接お願いするパターン。僕はこの「時計が壊れて直接職人に修理をお願いするパターン」に対してとてつもない嫌悪感を持っているのでそればかりはもうやりたくないのだが、時計屋さんが考えられる唯一の方法がそれだと言うので一般人はただただ従うしか無い。というわけで、僕はとりあえずこの時計を購入した店に行って職人さんに送ってもらって修理をお願いすることになった。なんだか、修理という名の目的地まで近くなったのか遠くなったのかよくわからないが、僕はとりあえずまた自転車に乗って、過去2回と合わせて今回で「3回目」の修理のお願いのために、またあの時計屋さんに赴くことになるのだが、それはまた次の機会に。

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